不動産や設備のように高額でありつつ、使用年数が増えるにつれて劣化が進む資産を帳簿上で処理する際に欠かせないのが減価償却の知識です。特に不動産を売却する際において、減価償却の知識はなくてはならないものであり、処理のルールや算出法を把握しておくだけで手続きのスムーズさは大きく変わります。ここでは減価償却とはどういうものかといった基礎知識から、不動産取引における基本的なルールや計算方法に関して解説します。
減価償却とは・基礎知識とその特徴
減価償却とは経年劣化により価値が薄れていく性質を持つ資産を、その購入費用を段階に分けて経費にしていく手続きのことです。購入費用をその初年度だけで処理してしまうと、帳簿上では損失が極端に上昇してしまいます。この場合減価償却とは、年間100万円や50万円ずつ価値が下落していくと想定して、毎年その額の分だけ費用を計上することにより、損益のバランスを保つテクニックと言えます。
一般家庭で減価償却とは、と問われれば不動産売却の際に使うことが多いですが、企業においては設備・機器などさまざまな資産に対して使われる節税のための手法です。もちろん年毎の金額は自分で決められるものではなく、不動産においては特に「法定耐用年数」が定められています。
通常はその購入費用を法定耐用年数によって割り算を行い、その額が毎年の減価償却費となります。その計算方法で求められた金額が、毎年帳簿に記載することを法的に認められた額です。
減価償却がもたらす効果について
減価償却は、全体の所得よりも毎年出て行くであろう経費の方が上回っている時に真価を発揮します。すなわち購入費用がかさんで、収支にマイナスが出るケースにおいて効果がある経理上の活用方法という訳です。
また数ある減価償却の活用方法として挙げられるのが、節税です。所得すなわち収入が大きくなるほどに、課税額は上昇していきます。必要経費によって毎年の所得を相殺し、課税対象額を減らすのが有用な活用方法となります。
なお不動産物件に対しての減価償却費の計算方法は、建物の購入代金に償却率と経過年数と0.9をかけることです。もし物件を法定耐用年数より前の段階で売却するのであれば、計算方法はその年数から築年数を引いた値に0.8をかけて求めます。0.8をかけて出た数値が、残存耐用年数となります。残存耐用年数に対して、1年単位で償却率が定められているため先述の計算方法に当てはめることで算出可能です。
不動産における減価償却の活用方法
不動産物件を購入する際も、売却する際においても減価償却は有用です。上手く運用することにより事業の所得、売却益を相殺することが可能です。平たく言えば、減価償却の主な活用方法は節税と言えます。
節税となる具体的な理由を見ていくと、建物価格の割合が高まることが挙げられます。課税対象額は事業所得から、建物価格を引いた額です。収入から建物の価格を引いた額が丸々課税対象となるため、価格を上げることで対象となる金額が下がるのは必然です。
また一般家庭においても同様に、不動産投資を行っている方の節税策になり得ます。副業として投資を行っているのであれば、不動産の減価償却費を給与所得に合算して赤字を増やすことで、所得税のかかる額が減るというメカニズムです。
耐用年数が短めの物件を購入するのも、減価償却によって節税に繋がる上手な活用方法の1つです。残存年数が少なめであるほど、毎年の償却費がかさばるため同様に課税対象額が減じるという寸法になります。
減価償却費の計算方法とその種類
減価償却費の計算方法は大きく分けて、定額法と定率法の2種類です。売却の有無を問わず、資産を所有するつもりであればあらかじめ把握しておくことが大切になります。
まず定額法は、償却率に影響されることなく毎年一定額を経費として計上する計算方法です。先述の建物の購入代金に償却率・経過年数と0.9をかける計算式が、これにあたります。物件を所有してからの経過年数が多いほど、償却費の合計額も大きくなります。それに比例して課税額が減らせて、大きな節税に繋がるというのが特徴です。経費が一定であるため、長いスパンでコントロールしやすいという利点があります。
一方で定率法は、毎年同じ比率で償却費を算出する計算方法です。前期末の帳簿価額に、耐用年数の1年ごとに定められた償却率をかけて求める計算式です。初年度のみ、償却率ではなく取得価格に置き換わるのが特徴です。最初の年の減価償却費が一番高くて、年々減っていくと把握しておけば良いでしょう。
なお平成28年度に法改正がなされ、以降の新築物件に関しては定額法しか認められていません。それ以前の物件であれば、定額法と定率法の併用は認められています。また不動産業界以外の資産・設備では、まだ定率法が主流となっているケースもあります。
物件の購入する前に減価償却をしっかり把握しておこう
不動産や設備など、大きな金額の買い物をする際には減価償却の知識は不可欠です。初年度に大きな経費を計上するのではなく、数年にわたって計上することで節税を行うテクニックと覚えておきましょう。節税を上手く行う上で、経費の比率を合法的に増やすテクニックは欠かせません。定額法と定率法の違い、物件の種類ごとの耐用年数や償却率をしっかりと把握して、計画的な運用を心がけることが大切です。